栃木県 二宮町 せんだん幼稚園 理事長コラム

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 ●子供は判断力の高い「お子さま」??
 産経新聞の月曜掲載の「教育」コーナーが面白い。もし同紙をお取りの方は是非ともご覧になることをお勧めしたい。さる11/14日号では日本教育技術学会名誉会長の野口芳宏先生が「お子さま」幻想への疑念、と題して寄稿されている。この中で先生は、いわゆる、子供は「自ら考え、自ら学ぶ」力を備えた「個性的な」存在であり、それを信じて教師は「支援や援助」に徹すべきだ、という高名な学者の理論に対し、自分自身の38年間にわたる小学校現場での実践的な経験から、真っ向より反対されている。学者の言うように子供は本来自ら学ぶ力を備えているという前提で自由な学習時間を与えても、大多数の子はそれになじまず、結果、表面的で浅い学習体験に終始してしまうと言う。何をどのように学習すべきか、その具体的な内容や方法といった道筋をきちんと教えず、ただ任せても現実として子供自身の判断力と実行力は極めて心許ないものであり、密度の濃い学習経験から遠い結果となってしまうそうだ。野口先生はそのことを自らの長い教育実践で経験されてきており、高名な学者の現実離れした観念論の虚妄性に警鐘を鳴らす。子供は判断力の高い存在だという前提に立った今の幻想的教育論調は、多くの子供の現実とかけ離れているのである。
 これと似たようなことは実は幼稚園界でもあった。時は平成元年、幼稚園教育要領の改訂に伴い、「主体性、個性を育てる」の大儀名文の下、それまでの教師による指導、という教育スタンスから援助という教育方針へ転換が図られた。こどもの自主性・主体性を育むために、先生主導の指導という方針を改め、こどもの自由に任せなくてはならない、という理論である。以後、幼児教育の形態はにわかに子供の趣向を優先した「自由保育」と言われるものへと変わっていった。結果、幼稚園のこどもたちはどうなったのか・・・(!)。
自由・主体性を単なる自分勝手と取り違えた子供がたくさん出現することとなった。《きれる16才》が随分前に話題となったが、それと同時に小学校入学時に前述のような子が学級崩壊を引き起こしている一因となっているのは周知の事実である。主体性・個性とはそれなりの人格・見識をベースに初めて認められるものであるのに、それがうまく育っていないのである。
 私たち教育の実践者は目の前の子供達の事実にしっかりと着目して考えるべきであり、子供と直接かかわっていない高名な学者の実証のない机上の観念に惑わされてはいけない。幼少期の教育は子供は高い判断力の持ち主という「お子さま」幻想に惑わされることなく、先生がまず人間としての手本を正々堂々と示し、楽しい雰囲気の中で望ましい活動・経験へと積極的に引っ張ってあげる、必要なことは教えてあげる、というスタンスが大切である。現実的に幼児の判断力は心許ないものであり、そこは教師が育ちへの筋道をきちんとリードし実行してあげなければかわいそうな結果となる。このことはプロの教師としてしっかりと押さえておきたい重要なポイントと言える。