大本山永平寺御征忌 [献供諷経焼香師]道中記
車での永平寺までの道のりは高速道路が中心となります。自坊より片道570十キロ程あるのですが、内一般道路はほんの二十キロ程度です。今回の法要で侍者、侍香という大事な脇役を担当する直弟子、玲音、弘文宗師、そして檀信徒総代代表として随行していただく村田國樹氏にも交替で運転をしていただき、ひたすら、高速道路を走っていきました。
焼香師本番を翌日に控えた9月25日は穏やかに晴れ、道路の交通状況も快調そのもの、朝5時半に自坊を出発し、途中幾度かの休憩、昼食をはさみ、午後1時過ぎには福井北インターを降りることができました。
思いの外、早く到着できたので、永平寺門前入口の茶屋(井の上さん)で休息をとっていると、本山総受処の参務和尚より店に電話が入ります。大事なお役目の焼香師の到着状況の様子伺いといった所のようでした。上山、下山の折、当茶屋で道中着を着替えたり、一服したりする和尚が多いので、感を働かせたのでしょうが、「どうしてわかったのかな?」と、とても不思議な感じがしました。
御征忌の期間中は全国より沢山のお寺さんがお手伝いに集まってきます。比較的近県の寺院さんは、車で来山し、この茶屋の向かい側の大駐車場へ駐車し(お寺さんは大概無料で利用できるようです)、門前通りを徒歩で抜けて上山するのですが、今回は焼香師というたいそうなお役目を受けている関係上、有難いことに本山南端にある地蔵院の下駐車場が利用できました
永平寺總受所で本山献香料、役寮・大衆添菜(差入れ料)を納めて、焼香師の控室(焼香師寮:妙高台という一番奥まった所)へ案内されました。お世話頂く係りの和尚様が重い荷物を運んでくださいました。
高坏に載せられた梅湯(砂糖湯に梅肉を入れて頂く疲れ癒しの飲み物)とお茶を頂き、まず到着帳に記帳。それから明日の法要で唱える香語(お線香を拈じて法要に臨む所感を七言絶句の漢詩にしたもの)を香語帳に記載します。余談でありますが、この香語の作成というものが、押韻、平仄等かなりの専門知識を要し、なかなかの難関であります。全くその面での素養がない私のような者が準備の上で最も難儀するところでありました。
午後四時過ぎから静岡県の焼香師様がお勤めになる夕方の焼香師法要 (晡時献湯諷経といいます)が始まりました。焼香師寮は法堂のすぐ側なので、袖側よりそっと様子を見させていただき、明日の本番へのイメージを整えました。永平寺の法堂は地方寺院の三倍以上の大きさがあり、重厚な荘厳も加わり、場の空気感が全く違い、居るだけで緊張してしまいます。いかにその雰囲気に飲まれずに冷静に務めるかが鍵となるでしょうか。
その後、此度の焼香師のお勤めを祝しての夕食(祝膳)を頂きました。焼香師への処膳として、一食分がこの[祝膳]という特別のものになるのですが、どのタイミングで出されるのかは、他の行事等との兼ね合いによるようです。様々な精進料理を盛りつけたお膳が二つ並び、専属の接待の知客和尚が接待役で目の前に付き添ってくださいます。一品一品、全て、典座という、食事の調理を司るお役目の和尚さんが心をこめて調理された料理となります。自分の口に入るまでの、その多くの手間や元々の食材の命、というものに思いを巡らしながら、有難く頂戴させて頂きました。
その後、明日の本番法要へ向けての習儀(練習)をして頂きました。永平寺での法要、儀式はすべてが厳密なきまりの下に進行しますので、その中心的式師者である導師には、いい加減な我流は許されません。一挙手、一頭足、作法に沿った動き、細心の注意が求められるのです。茶、湯を献じるのに使用する茶湯器というお道具も永平寺のものは特大サイズであり、その重さも半端なく、侍者より受け取り、香に薫じる作法の時にはそれこそ[気合と細心の注意]が必要です。進前焼香時の歩むスピードなどは、実際のお経のテンポ、法堂の広さとの兼ね合いでタイミングを取るのに慣れが必要なのですが、だいたいの感じだけ確認するしかなく、後は天に任せることにしました。
この記事へのコメントはありません。